THEE MOVIE

初恋のことを覚えているだろうか。
とても古い、甘い、ほろ苦い、もう日に焼き尽くされて
手で撫でたらぽろぽろ零れ落ちてしまいそうな
そんな切れっ端。
だけどずっと持っていたい。
これ以上ぼろぼろにしたくない。
憧れのような、遠い記憶。
これを見た気持ちは、そんなのに似ていることを思い出した。
 
私がこのバンドを見つけたのは、もう15年以上前。
ある雑誌のモノクロの1ページだった。
ライブのひとコマが切り取られた写真に歌っているボーカルの人が、
あるアーティストに顔が似ていて
かっこいいね、とクラスの女子で盛り上がった。
音も分からずにCDを買って、
最初聞いたときはボーカルの声がなじめないかもと思ってしまった。
当時の私は、いわゆるPOPなバンドしか受け付けず、
あの声が、ジャンルで分けていた私は好きになれなかった。
でもなぜだか惹かれる。
持っている雑誌を読み返して、片っ端から探し
出ているCDやビデオを一週間ほどで一気にかき集めた。
ずっと聞いていたら、この音にはこのボーカルがいいと思うようになった。
すぐにあの人たちが新潟に来ると知ったときは、行きたい気持ちでいっぱいになった。
チケットを買って、すぐライブの日がやって来て、
学校が終わると私たちは制服のままライブハウスに向かった。
冬だった。2月だったと思う。
私はスタンディングが初めてで、コートを着てライブに臨んだ。
ボーカルの人は雑誌と違って坊主になっていた。
あるアーティストには全く似てないことが判明した。
なんだかイメージが違ったけど、
CDで聞いてきた音はそのままかっこよかった。
口ずさめることが嬉しかった。
とはいえライブハウス。
人間洗濯機という言葉がぴったりで、
あちらこちらで渦巻いてた。
もみくちゃにされて、
私の体は斜めになったまま、すごい重圧がかかった。
コートを着てるのでとても暑い。
空気も薄い。
息を大きく吸い込んでも苦しい。
・・・
気づいたときはたくさんの人に覗きこまれていた。
制服だったので、スカートがまくれてないか、それが気になったのを覚えている。
すぐにスタッフが来て、私を担ぎ場内へと出した。
貧血で倒れてしまった。
黒幕から聞こえてくる曲たちが、会場に戻りたい気持ちを焦らす。
ぼーっとしていたら
ライブが終わったのだろう。ぞろぞろと人が黒幕から出てきた。
記憶に残るのは、担ぎ出されるときも、真正面のアベさんがギターを容赦なく弾いていたこと。
物販ではサイン色紙が付いてきて、すでにCDなどは全て揃えていたため指を加えて見てるしかなかった。
あの時、何かを買ってサインを貰えばよかったと今でも悔やんでいる。
高校生の私にはそれができなかったんだけど。
友達が帰りに教えてくれた。
私が買ったTシャツが、アンコールでチバさんが着ていたこと。
私のミッシェルの初ライブは苦い思い出。
 
それからミッシェルが新潟に来るときは必ず友達と足を運んだ。
苦い思い出のJUNK BOXから、PHASEに変わり、大きな会場になって喜んだ。
拳をあげて歌った。
楽しかった。
嬉しかった。
ミッシェルを好きでいることが誇りだった。
ライブの楽しさはミッシェルが教えてくれた。
 
時は過ぎ
解散が発表された。
「ぽっかり穴があいた」
本当にそんな言葉がぴったりで、
ミッシェルに解散なんてないと勝手に思っていた。
解散ツアーは、新潟にも来てくれたけど、
いつものPHASEなのに遠い場所で
背を伸ばしても見えづらく、
距離感が何とも言えない気持ちにさせた。
見えないから、ずっと壁に映るメンバーの影を目で追っていた。
 
幕張メッセが本当の最後で
チケットは取ってない。
仕事を休むことができず、県外に行こうという気持ちがなかった。
でも当日券予約の方法を知って、
夕方繋がるかな?と思って会社のトイレから電話したら繋がってしまい、
まだチケット取れます、と言われたのにびっくりして
考えてかけ直します。と言って電話を切った。
それから電話をかけることもなく、
本当に終わりだと思った。
 
幕張のライブは雑誌で読んだだけ。
それからずっとCDもDVDも封印してきた。
毎日忙しくて生きることがちょっとつまんないと思ったり
仕事辞めてのんびりしたり
新しい仕事や恋など
私の周りがぐるぐる変わっていった。
思わぬニュースが飛び込んできたのはインターネットから。
ずっと聞いてなかった音が
鳴り響く。
縛ってあった雑誌を解いて、懐かしく思った。
音はまだ聞けなかった。
 
この間のLOTSで行われたTHEE SCENEは複雑なものだった。
ずっと聞いてなかったし映像でなんて見たくない。
封印してきたミッシェル。
でもせっかくやるなら行きたくて、友達を誘った。
初めてみる幕張の映像はとても胸を熱くした。
実際アベさんを見るのは辛いものがあった。
ずっと前のアベさんなのに
本当にすぐそこにいるようだった。
フィルムで映し出されるそれは、想像より「ライブ」だった。
ダイブするものもいれば踊り狂うもの、あの時と同じように私も拳をあげてジャンプした。
でも私の気持ちが、ライブの場所が、時々あの頃と違うのがよく分かる。
状況に慣れて曲にのってきても、所詮スクリーンだし、とふと我に返ることが何回かあった。
最後はみんな拍手で終わったけど
帰り道は寒くて、せつない気持ちになり、
見なきゃよかったかな、と友達としんみりしたのだった。
 
それからしばらくして
同じ友達が映画に誘ってくれた。
私は新潟でミッシェルの映画をやることを知らなくて嬉しかったけれど、反面、
またこの間と同じ気持ちになるのかな?と思いながらも行くことにした。
発券所やパンフを買うとき「ミッシェルガンエレファント」と言うのが少し恥ずかしかった。
この単語はとても場違いな感じがしたから。
席に座って、音が一切なってないのに気づくのはそう遅くなく、
時間になって薄暗い明かりの中で「ゴッドファーザー愛のテーマ」が流れてきたとき
いつものようにメンバーが出てきたときに起こる地響きのような歓声と、
キューちゃんのダダダダダン、とドラムを叩く音が聞こえてきそうだった。
基本は幕張メッセの最後のライブ。
この間のライブは切なかった印象で終わったけれど
映画を見て、友達に言った第一声が
見て良かった、だった。
解散してしまってもう二度と再結成ができないこのバンドを愛しく思う。
なにも変わってない。
交互にでてくるデビューのころの映像と幕張のライブを見て思った。
ミッシェルは、ミッシェルの音楽をずっと真剣にやってきたのだ。
遠い存在になっていたけれど
それは私が変わっただけだった。離れていっただけだった。
私が勝手にそう思ってただけなのだった。
能野さん、馬場さん、ミッシェル、誘ってくれた友達、ありがとう。
改めて思う。
ミッシェルを好きで良かった。
 
アベさんが向こうでもギターを弾いてますように。