白いクリームのケーキ

今週のお題特別編「子供の頃に欲しかったもの」
〈春のブログキャンペーン 第3週〉

文房具屋のレジの前で姉弟は喧嘩した。
母は「やめなさい」という。
それでも喧嘩をやめない私たちに「お姉ちゃんなんだから、譲りなさい」と弟の欲しがってたものを選んだのだった。
いくら以上だったか忘れたけど、その店で買い物をすると文房具セットが貰えた。
それはただの文房具セットではない。
私が欲しかったのはケーキの形をしたもので、クリームの部分を外すとハサミだったり、苺を外すとクリップが入ってたりとカラクリ仕掛けの文房具セットだった。
でも弟の欲しいものは、パトカーの形をした同様のものだった。
母は会計をさっさと済ませて店を出ると、それを自転車カゴにいれた。
そして弟を前の椅子に座らせ、わんわん泣く私を後ろの椅子に座らせると自転車をこぎ始めた。
私は本当に、本当に悔しかった。
わんわん泣きわめいても、風がかき消す。
喉がカラッカラだ。
家に帰って「二人で仲良く使いなさい」と、それがテーブルに置かれた。
ミニカーではないので走らない。
文房具セットにまだ興味がない弟は、大して飛びつかなかった。
それにまた腹がたってわんわん泣いた。
数日後、かわいそうに思ったのか、似たようなケーキの形の文房具セットを買ってきてくれた。
ピンクのケーキ。
違うんだな、あの時、あの文房具屋で、あの白いクリームのケーキが欲しかったんだよ。
ピンクのケーキはそれなりに大事にしてたつもりだったけど、今はどこにもない。引越しの時捨ててしまったのか、どうしたのか忘れてしまった。
あれから30年。
私ももうすぐ二児の母になる予定だ。
私が当時の母の状況になったら、喧嘩する子供たちを前にどうするだろうかとずっと考えている。
ただ、文房具屋のレジの前に置かれた白いクリームのケーキが、今でも私の記憶に残って離れない。

写真は、ぼくちゃん(左)と一ヶ月違いのいとこです。
(昨日2時間車を走らせ、会ってきました)
私が男だったらパトカーを選んで、喧嘩しなかったのかな?